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脂溶性ビタミン総合研究委員会Research Committee on Fat-Soluble Vitamins (RCFSV)

ビタミンEとは

明治大学 農学部 農芸化学科
竹中麻子(Asako TAKENAKA)

 ビタミンEは実験動物の不妊を予防するビタミンとして発見されました。発見者によってトコフェロールと命名されましたが、これは子供を産むという意味の”tocos”と、力を与えるという意味の”phero”からできた名称です。その後、ビタミンEの作用が抗酸化作用であることが示され、生殖に関わる作用においても抗酸化作用が重要であることが明らかになりました。動物では不妊、溶血性貧血、筋ジストロフィーなどのビタミンE欠乏症状が報告されていますが、ヒトが明確な欠乏症状を示すことは通常はありません。

 ビタミンEには4種のトコフェロールと4種のトコトリエノールの合計8種類の同族体が存在します。4種の同族体はクロマノール環のメチル基の位置と数によってα-、 β-、γ-、δ-に区別されています。水酸基を有するクロマノール環と疎水性の側鎖を持つ構造により、ビタミンEは動物の体内では生体膜のリン脂質二重層内に局在し、生体膜を構成する脂質の不飽和脂肪酸を酸化障害から防御するはたらきをもっています。不飽和脂肪酸の酸化反応は連鎖的に進行する反応ですが、ビタミンEはこの連鎖反応を断ち切ることにより抗酸化作用を発揮します。従って、少ない量のビタミンEでも効率よく脂質酸化を抑制することができます。ビタミンEの抗酸化作用は動物の体内だけでなく食用油脂の中でも発揮されるので、抗酸化剤として油脂に加えられることもあります。

天然には上記の8種類のビタミンEが存在しますが、ヒトを含む哺乳類の体内にはα-トコフェロールが多く存在し、その他の同族体は体内濃度が高くならないことが古くから知られていました。この不思議な現象を引き起こす因子として、ビタミンE同族体の中でα-トコフェロールと高い親和性で結合する輸送タンパク質(α-tocopherol transfer protein, α-TTP)が発見されました。食事と共に体内に取り込まれたビタミンEは他の脂質と共にキロミクロンに取り込まれ、まず肝臓へと到達します。α-TTPは肝細胞内に運ばれてきたα-トコフェロールと結合し、細胞膜まで輸送して血中へと送り出すため、α-トコフェロールは血液循環に入って全身に運ばれていきます。一方、α-TTPと結合しないビタミンEは肝臓で代謝されてしまいます。このメカニズムにより、ビタミンEの中でα-トコフェロールの体内濃度が高くなることが明らかにされました。α-TTPを作れないように遺伝子操作したマウスでは体内のα-トコフェロール濃度が低くなってしまうので、α-TTPは体内のビタミンE濃度を維持するためにも重要です。

 私たち日本人は、ビタミンEを野菜、植物油、魚など多くの種類の食品から少しずつ摂取しています。通常の食生活では欠乏の心配があまりないビタミンですが、脂質吸収に障害がある場合にはビタミンEの吸収も悪くなりますので、注意が必要です。


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