脂肪酸とは
国立研究開発法人
産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門
細胞・生体医工学研究グループ
七里 元督(Mototada SHICHIRI)
脂肪酸(Fatty acid)は、生体内においては細胞膜を構成する脂質の主要成分として重要です。脂肪酸は炭素(C)、水素(H)、酸素(O)の3種類の原子で構成され、炭素原子が鎖状につながった一方の端にカルボキシル基(-COOH)がついた構造です(図1)。
脂肪酸の分類
脂肪酸は、炭素数や不飽和結合の数、幾何異性体の種類によって分類されます。
炭素数が6個未満のものは短鎖脂肪酸、6-12個は中鎖脂肪酸、13-21個は長鎖脂肪酸と区別されます。
炭素鎖が単結合のみの脂肪酸を飽和脂肪酸(saturated fatty acid)、炭素鎖に二重結合が含まれる脂肪酸を不飽和脂肪酸(unsaturated fatty acid)と分類され、特に二重結合が2つ以上ある物は多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid, PUFA)と呼ばれています(図1)。不飽和脂肪酸は幾何異性体としてcis型とtrans型にも分類されます(図1)。
人体内で生合成することができず、食べ物から摂取する必要がある脂肪酸(α-リノレン酸、リノール酸、アラキドン酸など)は必須脂肪酸と呼ばれています。
脂肪酸の役割
脂肪酸はエネルギー源として利用されるだけでなく、細胞膜の構成成分としても役割を持っています。細胞膜は一つ一つの細胞を区切る仕切りのようなもので、脂肪酸や脂質がなければ細胞は形作れません。
脂肪酸は生理活性脂質(脂質メディエーター)の材料としての重要な役割もあります。生理活性脂質とは脂肪酸が特定の代謝経路を通じて生合成され、特異的受容体を介して生理活性を示す化合物です。代表的なものとしてはアラキドン酸から生合成されるプロスタグランジンやロイコトリエンといった炎症に関係する生理活性脂質があります。
非ステロイド性抗炎症薬のアスピリンやインドメタシンはプロスタグランジンの生合成に関わる酵素シクロオキシゲナーゼを阻害することで解熱・鎮痛・抗炎症作用を示します。
生体内で重要な役割を持つ脂肪酸ですが、特に不飽和脂肪酸は活性酸素による酸化変性を受けやすいですが、抗酸化酵素グルタチオンペルオキシダーゼや抗酸化ビタミンであるビタミンE、ビタミンCなどによって酸化変性から防御する仕組みも生体には備わっています。