ビタミンDとは
大阪公立大学 生活科学部食栄養学科
桒原 晶子(Akiko KUWABARA)
ビタミンDは古くにはカルシウムの代謝調節の働きを通じて、骨の健康に関わることが知られてきました。その後、ビタミンDが働くために必要な受け皿(ビタミンD受容体)が全身に存在し、これを介してさまざまな作用を示すことがわかってきました。このようなビタミンDですが、食事などで口から摂取するだけでなく、皮膚に紫外線を浴びることでその多くが生成されます。実際に紫外線量が多い夏では、冬に比べてビタミンD栄養状態が高いことが報告されています。摂取した分と皮膚で産生されたビタミンDの双方を反映するのは、肝臓で代謝された25‐ヒドロキシビタミンD [25(OH)D]という形であり、ビタミンD栄養状態の指標として扱われています。最終的には、主に腎臓で活性型ビタミンDに代謝され、これがビタミンD受容体に結合し、作用を示します。
さて、ビタミンD栄養状態は、血中25(OH)D濃度で評価され、30 ng/mL以上を「充足」、20~30 ng/mL未満を「不足」、20 ng/mL未満を「欠乏」とされています。日本人を対象にした疫学研究でも、広い年代で約半数程度は「欠乏」に該当し、「不足」も含めると、90%以上となることが明らかにされています。ただし、ビタミンDが不足・欠乏レベルにあるとは言っても、目に見えてわかる症状はありません。しかし、潜在的に様々な疾患に罹る可能性が高まっている状態となります。上述したように、ビタミンDは骨の健康に関係しており、不足レベルであっても骨粗鬆症による骨折を起こしやすいことが明らかになっています。骨折については、ビタミンDが欠乏している方に、カルシウムと共にビタミンDサプリメントを摂ることで、そのリスクを低減させる可能性があることが明らかにされています。近年、話題となっているフレイルですが、フレイルに関わる筋肉にもビタミンDは関係し、筋力の低下によっておこりやすい転倒に対しても、血中25(OH)D濃度が高い方が転倒しにくく、またビタミンDが欠乏している方へのビタミンDサプリメントの介入効果も明らかにされています。なお、ビタミンDを20 µg/日程度を毎日摂取することが、効果的であることも示唆されています。その他のいわゆる生活習慣病とされる、循環器疾患や糖尿病、がん、また感染症に対して、血中25(OH)D濃度が低いことがこれら疾患にかかるリスクが高いこと、さらに妊娠高血圧腎症や、低出生体重児の出産にも関係することが、近年明らかにされてきていますが、いずれもビタミンDサプリメントの有効性を示すには至っていません。
現状のエビデンスでは、疾患予防のために、日頃からビタミンD栄養状態を高めることを目指し、ビタミンDを多く含む魚類の摂取や日光に当たる習慣を日頃から持っておくことが大切であると言えます。