ビタミンAとは
東京慈恵会医科大学 臨床検査医学講座
目崎喜弘(Yoshihiro MEZAKI)
20世紀初頭、ネズミの飼育実験から、三大栄養素(タンパク質、脂質、糖質)とミネラル以外に、未知の栄養素が成長に必須であることが分かり、その化学的性質の違いから、脂溶性A、水溶性Bと名付けられました。脂溶性Aは、その後ビタミンAと呼ばれるようになり、単離精製と構造決定が精力的に進められました。その結果、ビタミンAの化学構造が明らかになり、末端にアルコール基を持つことから、レチノールと名付けられました。
レチノールは、肝臓で貯蔵されるときにはエステル体(レチニルエステル)、細胞内で生理作用を発揮するときには酸化体(レチナールやレチノイン酸)へとさまざまに形を変えますが、これらの化合物も広くビタミンAと呼ばれることがあります。また、緑黄色野菜には、βカロテンをはじめとするビタミンAの前駆体が含まれていますが、これらは通常、プロビタミンAと呼ばれ、ビタミンAとは区別されます。そのほか、レチノイン酸と同等の生理作用を示す化合物群を総称してレチノイドと呼び、医薬品への応用などが研究されています。
ビタミンAの主な生理作用は、視覚機能、上皮の機能維持、細胞分化制御です。視覚機能はレチナールによって担われますが、そのほかの多くの生理作用は、レチノイン酸によるものです。レチナールは、網膜の視細胞内でタンパク質と結合しており、光のエネルギーをレチナールの化学構造の変化によって受け止め、最終的に電気信号に変換することで、視覚情報を脳に伝えます。レチノイン酸は、細胞核内のレチノイン酸受容体に結合し、標的遺伝子の転写を活性化することで、さまざまな生理作用を発揮します。
ビタミンA不足による疾患として、夜盲症が有名ですが、粘膜上皮の角質化や分泌機能低下によって引き起こされる感染症なども知られています。また、脂溶性で体内に蓄積しやすいビタミンAには、過剰症の恐れもあり、脳圧亢進に伴う頭痛や吐き気、胎児の奇形などが挙げられます。一方、プロビタミンAは、体の必要に応じてビタミンAに変換されるため、過剰症となることはありません。